ラストワンマイルをつなぐ
ワクチン保冷輸送車で
途上国の子供たちの命を守る
多くの子供が5歳になる前に命を失う途上国の実態
グローバルヘルスは、地球規模の保健・衛生に関する国際社会の重要課題です。SDGsの17の目標の1つにも「すべての人に健康と福祉を」とあるように、誰もが予防・治療などの保健医療サービスを適切に受けられるより良い社会を目指すために、各国政府だけでなく国際機関や官民パートナーシップなど産官学が連携し貢献していくことが求められています。
世界では毎年500万人超の子供が5歳未満で命を失っています。その約8割を占めるのが、医療格差の大きいサハラ以南のアフリカ地域および南アジア地域といったグローバルサウスといわれる途上国です。サハラ以南のアフリカ地域における5歳未満児死亡率は、先進国の欧州や北米の10倍以上にも及びます。※1死因の多くは、肺炎、下痢、マラリアですが、マラリアやはしかなどの感染症予防には、ワクチンが有効な手段の1つです。※2子供たちのもとにワクチンが届き予防接種を受けられる環境があれば、多くの命を守ることができるのです。
ワクチン輸送のボトルネック、ラストワンマイル
アフリカ諸国を含む途上国に、ワクチンと予防接種の普及を目指す世界同盟のGAVIアライアンス※3や、UNICEFなどの国際機関から多くのワクチンが供給されています。
子供たちがこの予防接種を受けるためには、最終地点までワクチンを適切に輸送しなければなりません。ワクチンは、熱に弱く、一定の温度を超えると使えなくなります。例えば、新生児用ワクチンは2~8℃で保管する必要があります。そのため、ワクチンにはコールドチェーン(低温物流)が不可欠です。
GAVIアライアンスなどから供給されたワクチンは各地の保健センターへ冷蔵庫に入れた状態で運ばれます。その先の病院までは、保冷剤を入れた運搬用の箱に詰め替え届けられることが一般的です。
しかし、途上国では交通インフラが未整備な地域も多く、運搬手段も限られています。都市部の保健センターまでは温度管理されて届くものの、保健センターから病院までは、保冷設備のない普通車やバイクでの運搬や場合によってはワクチンの適正温度を超えた中を人が何時間も担いで運搬しなければなりません。
このような事情から、ワクチン供給量全体の約2割(400億円相当)が、破棄処分となっていました。これも原因の一つとなり、ワクチンで予防可能な感染症で毎年150万人の子供の命が失われていました。
商社だからできたこと
つなぎ、掛け合わせ、新たな価値を生み出す
ワクチンコールドチェーンのラストワンマイルは以前から課題とされていました。また、その解決に明確なニーズと社会的な意義があり、保冷輸送に適した車「ワクチン保冷輸送車」の開発と投入によって解決できる可能性があることも認識されていました。
しかし、ワクチン保冷輸送車の開発に乗り出す企業はありませんでした。それは、市場の規模感や実現可能性が未知数だったためです。また、ワクチン保冷輸送車の提供には、世界保健機関(WHO)による医療機材品質認証(PQS・詳細は後述)を取得する必要がありますが、そのハードルも極めて高いと考えられていました。
このような中、現状を何とか変えられないかと当社社員が声をあげました。
医療機器メーカーと車両メーカーをつなぎ、ワクチン保冷輸送車を作れないかと考えたのです。以前からお付き合いのあったルクセンブルクの医療用冷蔵庫メーカーであるB Medical Systems社とトヨタ自動車へ提案したところ、両社から賛同を得ることができました。
ワクチン保冷輸送車の車両にはトヨタランドクルーザー78を使用しました。オフロードの走行に適したこの車両は、途上国の未整備の道路でも走破が可能です。また、B Medical Systems社が製作するワクチン専用の冷蔵庫は396L(小児用ワクチンパッケージ400個分のイメージ)の容量があります。冷蔵庫は電源無しで約16時間稼働でき、走行中は車両から、駐車中は外部電源から充電ができます。
車両への冷蔵庫の設置、また冷蔵庫自体の温度管理や電源供給など開発には多くの苦労がありました。しかし、何としてもワクチンを届けたいという強い想いがついにワクチン保冷輸送車の実現までこぎ着けました。
豊田通商は車両や冷蔵庫の製作は生業としていませんが、商社の強みでもある異業種を「つなぐ」ことで、今まで世の中になかったものを創り出すことができたのです。
ワクチン保冷輸送車で世界初、国際的な認証を取得して供給を推進
2021年3月、豊田通商は、B Medial Systems社とトヨタ自動車と共に、ワクチン保冷輸送車に対するWHOが定める医療機材品質認証PQSを取得しました。PQSは、Performance、Quality、Safetyの頭文字で、国連が調達する医療機材の調達において対象機材の開発を推進するとともに品質水準を設けるべく定められた、WHO認可による医療機材の認証制度です。PQSを取得した医療機材は、国連の関係機関やNGOなど慈善団体の機材選定基準にもなります。また、自国に医療機材の認証制度がない途上国に対しても、これらの団体がPQS認証基準とすることにより供給しやすくなります。
前例が無く難しい挑戦ではありましたが、一歩ずつ道を切り拓いた結果、世界初のPQSを取得したワクチン保冷輸送車が供給可能となったのです。
この認証取得を受け、当社は2021年11月にワクチン保冷輸送車10台をガーナ共和国の保健省へ納車しました。ワクチン保冷輸送車第1号です。
また、ワクチン保冷輸送車は、小児用ワクチンの輸送のみならず、途上国における新型コロナウイルスワクチンの供給でも力を発揮しました。GAVIアライアンスとWHOなどは、途上国92カ国にワクチンを供給する枠組みを設立しました。2021年5月、当社はこの活動に賛同し、途上国向けに新型コロナウイルスワクチンを供給するGavi COVAX AMC※4に1億円の寄付と、ワクチン保冷輸送車5台を提供しました。
2022年7月からは、GAVIアライアンスと共同し、約1年間にわたってワクチン保冷輸送車の実地走行試験を始めました。この共同試験は、GAVIアライアンスが取り組む「Zero-dose Children(ジフテリア・破傷風・百日咳含有ワクチン(DTP1)の初回投与を受けていない小児)の撲滅」におけるワクチン保冷輸送車の貢献を検証するものです。
2023年6月に完了した共同試験の結果、廃棄ワクチンや運用コストの削減、輸送オペレーションの効率化などにおける成果が確認されました。これにより、ワクチン保冷輸送車は、ワクチンコールドチェーンのラストワンマイル輸送における画期的なソリューションとしてGAVIアライアンスに高く評価されました。
- ※4Gavi COVAX AMC・・・途上国向けに新型コロナウイルス感染症ワクチン供給を行う枠組み
より多くの地域で子供たちにワクチンを
2021年の第1号の納車以降、ワクチン保冷輸送車は着実に普及しています。2023年6月には、世界銀行によるワクチンコールドチェーン整備のための資金を活用し、ニジェールから48台を受注しました。現在、20カ国以上の途上国で170台以上のワクチン保冷輸送車が命を守るために走っています。
一人の商社パーソンの熱い想いから生まれたワクチン保冷輸送車。アフリカにおいてこの車両の供給は、スタートしたばかり。現地にはラストワンマイル輸送の改善を待つ子供がたくさんいます。また、道路事情や輸送手段によってワクチンが届けられない地域はアフリカ以外にも多くあります。
コロナ禍を経て、グローバルヘルスに対する意識は世界的にさらに高まっています。豊田通商は、ワクチン保冷輸送車の普及を始めとし、「誰一人取り残さない」健康な社会の実現に資するグローバルヘルスへの貢献を目指しています。
これからも、「未来の子供たちへ より良い地球環境を届ける」ために、これからも社会課題の解決に取り組んでいきます。
ワクチン保冷輸送車のこれまでの取り組み(プレスリリース・お知らせ)
Gaviプロジェクト動画(英語字幕)
ワクチン保冷輸送における課題と、そこにホワイトスペースの市場があることは、長年ワクチン医療ODAに関わる中で認識していました。一方で、果たしてどういう市場なのか、規模はどのくらいなのかは未知数でした。加えて、実現にはWHOのPQS認証も必要であり、ハードルの高さは自明でした。しかし、「誰かがリーダーシップを取らなければ」という想いで、商社ならではの役割を果たすべく、企業同士をつなげ新しいビジネスの創造に向けて挑戦し、ワクチン輸送部門では世界初となるWHO認証取得を実現しました。これからもアフリカをはじめとする途上国における課題解決に取り組んでまいります。
当社は、成長戦略における7つの重点分野の一つとして「Economy of Life」を掲げており、私が所属するモビリティ本部としても新たな領域となるグローバルヘルスに取り組んでいます。グローバルヘルスに取り組むにあたっては、商品である車両のみならず、「ヘルスケア」のプロフェッショナルであることも求められます。アフリカや他の途上国の現場に赴き医療サービスの課題を目の当たりにするたびに、その社会的意義と携わることへの責任を自覚します。第一弾として展開しているワクチン保冷輸送車を皮切りに、これからもグローバルヘルス領域において、当社ならではのモビリティ事業を通し、命を救う取り組みに努めてまいります。
2024年8月19日