リスクマネジメント

リスク管理体制

当社では「リスク管理基本方針」において「リスク」を「業務に不測の損失を生じさせ、当社グループの財産、信用などを毀損する可能性を有するもの」と定義し、業務から生じるさまざまな「リスク」について認識・検討を行い、経営の安全性を確保し、企業価値を高めるため、適切かつ統制された範囲内でリスクを取ることを基本的な考え方としています。リスク管理基本方針を具体的に遂行するにあたり、COSO-ERMフレームワークなどの考え方を参考に、従来個別に行ってきた各リスク主管部でのリスク管理のみならず、2020年4月には旧ERM委員会を、よりグローバルなリスクマネジメント状況を検証する全社会議体「統合リスク管理委員会」に進化させました。同委員会は、CFOを委員長とし、海外各地域のリスク担当ヘッドを中心に、営業本部企画部長や各リスク主管担当役員・部長が出席し、主として、Check10活動という改善活動を行っております。

Check10活動とは、各リスク項目の中から最も注力すべき10のリスク項目(商品/与信/事業/為替・資金調達/内部統制/人事労務/情報セキュリティ/不祥事/物流/労働安全・環境)を設定し、事業体ごとに、リスクと管理体制の2軸で評価および評点を付け、ヒートマップを作成し、定量・定性双方のリスクの見える化を実現した上で、当該リスク評価を分析し、各リスク主管部が支援を行い、グローバルなリスクの把握と問題の発見及び改善活動を実現すべく、必要な対策を議論・推進して当社グループ全体のリスクにつき、連結ベースでのリスクマネジメント体制の構築、強化を図っています。

また、当該委員会で抽出された、豊田通商グループの経営に重大な影響を及ぼすリスクを明確化し、経営目標に関する全社的な重要リスクの特定及び対応方針の協議・決定とリスク管理プロセスの有効性検証を行い、CEOへの報告及び取締役会へリスクマネジメントに関する議題の提言を行っています。取締役会はその提言に基づいてリスク管理プロセスの有効性を継続的に監督し、変更が必要な場合は適切な措置を講じています。

Check10
リスク影響度と管理体制の2軸マトリックス
リスク評価結果(ヒートマップ)

リスクマネジメント

リスクアセット(RA)/リスクバッファー(RB)

豊田通商では、リスク総量が経営体力の範囲内に収まっているかを検証するために、定期的に当社連結ベースでの最大予想損失額であるリスクアセット(RA)の計測を実施し、このRAと当社の財務的な企業体力であるリスクバッファー(RB)との均衡を図ることに取り組んでいます。RAは貸借対照表の各勘定科目をベースにしたリスクアセット元本(RA元本)に最大予想損失率を指すリスクウェイト(RW)を乗じることで算出し、RBは当社の財務的な企業体力と定義し、算出しています。また、当期利益による継続したRBの積み上げを行うことで、健全かつ安定した財務体質の維持を目指しています。

リスクアセットに対するリスク管理については「RA/RB<1.0」としてマネージしています。ビジネスユニット単位まで落とし込んだキャッシュ・フロー・マネジメントを推進し、事業の収益性と運転資本の効率性を高めることで、営業キャッシュ・フローの極大化を図り、創出したキャッシュを基に、成長への投資と株主還元をバランス良く両立させていく方針です。これらの継続的な取り組みの結果、2023年3月期については、引き続きRAはRBの範囲内(RA/RB=0.7<1.0)となっています。

さらに、RA総額を国ごとに把握し、定めた上限値の範囲内に抑えることで、リスクの過度な集中を防ぐカントリーリスク管理を行っています。また、リスクに対する収益確保を目的として、リスク収益性を測る経営指標RVAを導入しています。

世界の極・地域ごとの管理状況

主要なリスク

商品リスク

商品価格変動リスクに晒される非鉄金属・石油製品・ゴム・食料・繊維等の相場商品取引については、ポジション限度枠を設定し、限度枠遵守状況の定期的なモニタリングを行い、価格変動のリスクを低減する施策を講じています。

信用リスク

取引先の財務内容を基にした当社独自基準の格付(8段階)を行い、売掛金・前渡金等取引の種類ごとに限度枠を設定しています。なお、低格付の取引先に対しては、取引条件の見直し、債権保全、撤退等の取引方針を定め、個別に重点管理を行い、損失防止に努めています。

事業投資リスク

既存提携関係の強化または新規提携を行うことにより、既存事業の拡大や機能強化または新規事業への参入を目指しております。新規投資については、戦略性や全社優先順位を議論し、担当営業部だけでなく、コーポレート部門担当者も検討に参画し、幅広い視点から投資リターン、各種リスク分析等の検討を行っています。また、投資実行後は計画通りの投資リターンを得て、リスク資産に見合った利益を確保しているか等のモニタリングを実施し、計画通りに進行していない案件に対する再建・撤退ルールを厳格に運用しております。

外国為替リスク

為替変動リスクに晒される外貨建ての取引については、為替予約等によるヘッジ策を講じています。やむを得ない理由でヘッジできないものについては、ポジション限度枠を設定し、実績を定期的にモニタリングする中で、為替変動リスクを低減する施策を講じています。

資金調達に関するリスク

金融機関との良好な取引関係の維持及びアセット・ライアビリティ・マネジメント(ALM)に努め、資産の内容に応じた調達を実施することで流動性リスクの最小化を図っております。

人権リスク

事業活動を通じて社会に影響を与える人権リスクへ対応するため、2022年3月期より全連結子会社を対象に人権デューデリジェンスの取り組みを開始しています。

社内外専門家の意見を踏まえ、世界各国に存在する全連結子会社において事業特性(業種)、所在拠点(国)、取り扱う商材の3 点から人権リスクの分析を行い、当社として優先してリスクの確認が必要と思われる93社を特定しました。その中で今回人権デューデリジェンスにおいて事業特有の課題などから当社が検討した顕著な人権課題は、「強制労働」「児童労働」「差別」「結社の自由・団体交渉権」の4つです。

当該93社に対し、想定される具体的な人権リスクの管理状況を、質問票を通じ調査しました。その結果に基づき、更なる調査が必要と思われる会社を特定し、第三者機関立ち会いのもとインタビューを通じて実態を調査、リスク低減に向けた具体的な取り組みの方向性を策定しました。

本プロセスを通じ顕在化が直ちに懸念される人権課題は特定されませんでしたが、人権リスク低減に向けた取り組みを今後も継続していきます。

なお本プロセスの状況及び評価結果については、サステナビリティ推進委員会にて報告しております。

情報セキュリティリスク

当社の情報セキュリティポリシーに基づき、下記の施策などを通じて、リスク管理を実施しています。

  1. 1セキュリティガイドラインの展開

    豊田通商グループ標準の情報セキュリティ管理ガイドライン(All Toyota Security Guideline)をグローバルに制定・展開し、各社対応状況の可視化と継続的な改善を実施しています。
    日増しに高度化するサイバー攻撃等のリスクに対応すべく、ガイドラインの定期的な見直しを実施し、併せてグループ各社の管理能力の向上に努めています。

  2. 2グループ標準セキュリティ管理システムの展開

    ガイドライン遵守を効率的かつ均質に推進するために、グループ標準セキュリティシステムを構築し、グローバルに展開・運用管理しています。
    ネットワークセキュリティ、メールセキュリティ、PCセキュリティなどの主要なIT機能がグローバルで標準化されており、今後も適宜機能拡張していきます。

  3. 3サイバー攻撃への対応体制の構築

    サイバー攻撃対応体制(Computer Security Incident Response Team)を構築し、定常的な脅威情報の収集・分析とグループ標準セキュリティシステムによる監視活動によって、セキュリティ事故発生リスクを低減するための予防活動を実施しています。
    セキュリティ事故発生時の被害を最小化するために、グループ各社との連携・支援体制を整備し、影響範囲の特定、対策、再発防止を速やかに実行できる環境づくりに努めています。

コンプライアンスリスク

コンプライアンス・危機管理部を設置し、グループ全体のコンプライアンス体制を強化することで、法令遵守の徹底等コンプライアンス意識の向上を図っております。

関連リンク

労働安全衛生および環境保全に関するリスク

管理規程あるいはガイドラインを整備し、リスクの適切な把握と管理を実施しています。

環境リスク管理

当社グループの事業体は、環境方針および生物多様性ガイドラインに基づいて運用されています。既存の事業体については、設備ごとの環境汚染リスク度と、作業現場の管理レベルを定量評価し、環境汚染リスクの低減に取り組んでいます。また、環境法令の順守評価を半年ごとに実施し、さらに 内部監査、外部審査で重点課題の法令順守状況をダブルチェックしています。

カントリーリスク

カントリーリスクが高い国における案件については、貿易保険等によりリスクを低減することに努めております。また、最大想定損失額であるリスクアセットを国ごとに把握し、各国ごとに定めた上限値の範囲内に抑えることで、特定の地域または国に対する集中の是正に努めております。

危機管理

海外危機管理

2013年1月に発生したアルジェリアでのテロ事件を受け、同年4月に専門組織として人事部内にセキュリティ対策室を設置。現在はコンプライアンス・危機管理部の危機管理・BCM推進室が、海外赴任者、帯同家族を対象とした「海外赴任前説明会」に加えて、海外特有の危険を実際に体験する訓練も実施しています。

  1. 1海外経験の浅い若手社員を対象に「海外出張時『基本動作』確認講習会」
  2. 2ハイリスク国の駐在員を対象に「テロなどへの対処訓練」また、セキュリティ情報の収集・分析強化を行い、海外危機管理ホームページを通じて、国内外のグループ社員に情報発信しています。医療面では、海外滞在先から電話による医師への医療相談や緊急医療搬送などに24時間365日対応する体制を敷いています。

事業継続

豊田通商グループではコンプライアンス・危機管理部の危機管理・BCM推進室を中心に、BCM(Business Continuity Management)体制を構築しています。

豊田通商のBCP(事業継続計画/Business Continuity Plan)は地震、台風などの自然災害、テロ、パンデミック、サイバー攻撃など、あらゆるリスクを考慮したオールハザード型のBCPで、国内外210事業で策定しています。具体的には「豊田通商グループ事業継続基本方針」に従い、社員が出社不可、本社が入館不可、長期停電、IT使用不可など重要な経営資源が使用不可になった場合のシナリオを想定し、事業を中断させない、もしくは中断したとしてもできるだけ早急に復旧させるための対応計画を策定しています。策定した対応計画に基づき、毎年9月と3月に大規模地震を想定した災害対策初動訓練を実施しています。また、BCPを策定した事業の事例集や定期的にニュースレターを日本語と英語で発行するなど、グローバルで活動する社員に対する啓蒙・啓発活動も実施しています。適切な管理体制を維持できるよう策定したBCPに基づき、定期的に演習と改善を行い、PDCAサイクルを回し、継続運用しています。

豊田通商グループ事業継続基本方針

  1. 1従業員と家族の安全を最優先する。
  2. 2有事の際でも地域・社会との共存共栄の理念を忘れず、従業員が自発的に社会的責任を遂行する。
  3. 3想定されるリスクを予防するとともに、有事の際にはチームパワーを最大化して迅速な復旧に取り組み、顧客への影響を最小化し、事業継続を目指す。
  4. 4教育・訓練を通じて事業継続方針を全役職員に周知徹底し意識の向上を図るとともに、継続的改善を行うことで、現地現物現実に則った事業継続マネジメント(BCM)に取り組む。

紛争鉱物への対応

コンゴ民主共和国(DRC)及び周辺9か国で採掘される鉱物資源が、人権侵害・ 環境破壊などを引き起こしている武装勢力の資金源となっていることが全世界で 懸念されています。米国上場企業を中心にグローバルにサプライチェーンを さかのぼり、これらの紛争鉱物が含まれていないか確認する調査が2013年から 毎年実施されており、当社もサプライチェーンの一員として、積極的に調査に参加しています。

投資サイクルマネジメント

会社の持続的成長には、リスクを適切に管理し、投資を確かな成果へと結び付けることが大切であると考えています。当社では短期的な利益を狙うような投資ではなく、中長期的に事業を育て、当社グループのバリューチェーンの拡大・強化につながるような戦略的投資を基本としており、投資の検討から実行に至る各段階において、社内の知見・経験を集結し審議を重ねる体制を整えています。また投資実行後のフォロー体制を充実させ、事業会社の課題解決や資産入れ替えに取り組んでいます。

豊田通商においては、常に連結バランスシートの精査を実施しており、為替・金利・クレジット・商品市況等の日々のリスク分析に加え、地政学リスクを含めたカントリーリスクを俯瞰的にチェックする体制を敷いています。これらは新規投資に関してもスクリーニングを行っており、投融資協議会や投融資委員会に先駆けて精査しています。

新規投資案件については、方針会議、投資戦略会議で大きな方針を決定、個別案件は投融資協議会・投融資委員会で事業計画をスクリーニングの上、機関決定を行っています。CFO補佐が議長を務める投融資協議会とCFOが議長を務める投融資委員会では、当社独自の指標である使用資金に対して期待される収益規模が確保されているかを検証するTVA*1、ならびにリスクに見合う収益が確保されているかを検証するRVA*2を用いて入口管理を行うとともに、当社独自の環境チェックシートを用いて、気候変動をはじめとした環境リスクや温室効果ガス排出量、削減効果等も評価する等、案件を複数の観点から定量的に検証しています。また国内外の一部の関係会社には、投資意思決定の迅速化を目的に、投資権限の委譲を進めています。

投資実行後については、課題のある案件について、コーポレート部門と営業本部共働で課題の進捗管理・支援を継続的に行っています(チェック&サポート活動)。また、営業本部での自主的な業績モニタリングに加えて、コーポレート部門にてBS/PL基準*3によるモニタリングも実施。定量基準を下回った場合には、その事業の継続可否を検証・判断し、撤退か再建かの判断を行っています。

今後もこの投資サイクルを回していくことで、適切な経営資源の配分と資本効率の向上を目指します。

  1. ※1TVA:Toyotsu Value Achievementの略称。
    TVA=(基礎収益-利息収支)×(1-各国税率)-使用資金×国別使用資金コスト率
    基礎収益とは、営業活動以外から発生した、非経常的で臨時的、かつ多額の損益を調整した税引前当期利益であり、営業本部・事業体の「稼ぐ力」を示す
    国別使用資金コスト率とは、営業活動・事業活動に要する使用資金から生じる、国別資本コストと国債利回りの加重平均によるコスト率を示す
  2. ※2RVA:Risk adjusted Value Addedの略称。
    RVA=基礎収益×60%-リスクアセット×リスクコスト率
    リスクアセットとは不測の事態(100年に1度起こるぐらいの事件)が起こった場合に発生し得る最大予想損失額
    リスクコスト率とは当社ROE(自己資本利益率)目標値13%以上を目線とした株主期待収益率
  3. ※3 BS 基準:資本欠損率50%以上
    PL 基準:当期利益2期連続赤字、あるいは投資時計画値より2期連続30%以上の下振れの場合に、再建、撤退を判断