CFOメッセージ
中期経営計画の振り返りと
新たな計画の要点
「サプライチェーンを守り抜く」その取り組みが
実を結び、3期連続で最高益を更新できました。
2024年3月期を最終年度とした中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)は、業績面においても財務体質面においても、非常に良い成果を見ることができました。
3期連続で最高益を更新できた一番の理由は、コロナ禍においても「サプライチェーンを守り抜く」ことをモットーに、各国・各エリアで細かく事業を見直し、お客さまと社会の期待に応えてきたことにあります。また、米中関係の悪化を含む地政学リスクや自然災害等、社会の新たな「ひずみ」の解消につながるビジネスを次々と立ち上げたことも奏功しました。中でも、現場にとても近い商社である当社が、現場のお困り事に対し非常にビビットに反応できたことが一番大きいと思っています。
財務体質の面では、徹底的に無駄のないオペレーションを追求し、当社ビジネスにおいて重視している運転資本回転日数について、一つひとつのビジネスに深く入り込み適正日数にコントロールしました。その成果として、一度は膨らんでしまったバランスシートを3年間でしっかりと絞り込むことができました。
また営業キャッシュ・フローについても、目標を超える5,000億円以上の水準となり、私としては狙い通りの結果を出した3年間になったと思っています。
当期利益4,000億円を目指しながら
長期的な成長のための足場固めを進めます。
2024年4月末に公表した中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)では、2027年3月期の当期利益4,000億円という当社としてはアグレッシブな目標を掲げました。過去から積み上げてきた事業や投資が刈り取りの時期を迎え、リーンなオペレーションの強化が相俟って、キャッシュ創出力が高まってきており、7%弱の年平均成長率を達成していく確度は高いと考えています。
今回の中期経営計画では、我々の中長期的な成長投資領域の考え方を、定性・定量の両面から整理し公表させていただきました。1つ目は、モビリティや半導体関連、アフリカ事業等の我々が強みとしている「Core Value(基盤事業、以下CoreValue)」。2つ目は、バッテリーやリサイクル等の社会資本を活用し、そこで得た付加価値をまた社会資本に還元していく「Social Value(社会価値=社会課題解決型事業から生まれる価値、以下Social Value)」。そして3つ目は、再生可能エネルギーや水素関連事業等の自然資本に還元していく「NatureValue(自然価値=環境負荷軽減事業から生まれる価値、以下Nature Value)」という3つの領域です。基本的には、CoreValueで築き上げてきた「豊田通商らしさ」でキャッシュを最大化し、将来の事業の柱となるであろうSocial Valueや、NatureValue等のサステナブルな領域へ投資を振り向けていきます。
中期経営計画期間において、我々のベースとなるCoreValue領域で追加的にCAPEX*を投入し、さらなる機能強化・効率化を図ることで、継続的なキャッシュ創出力を強化していきます。Social ValueやNature Valueの領域は将来的にアップサイドが見込める事業分野と考えており、その領域に我々の得意とする“Be the Right ONE”を付加し、さらなるバリューを生むことで、企業価値が向上していくと考えています。
- *CAPEX:資本的支出(資産の価値を維持、向上させるための費用)
キャッシュアロケーション計画
ROEとネットDERを管理しながら長期的な
成長に向けて1兆円を投資していきます。
中期経営計画期間では、モビリティに関するバリューチェーンを中心とした既存事業の磨き上げと、これまでの投資の刈り取りによって3年間で1兆3,000億円以上のキャッシュを創出できると想定しています。そのうち1兆円以上を成長投資にあて、3,000億円以上を株主の皆さまに還元していく方針です。
成長投資については、まず「Core Value」の領域で、サプライチェーンのさらなる高度化に貢献するビジネスに4,000億円以上を投じます。また、再生可能エネルギー等を含む「NatureValue」の領域と、資源循環システムの構築等に寄与する「Social Value」の領域に、それぞれ3,000億円以上を投資していきます。「Nature Value」と「Social Value」の領域は中長期的な時間軸でリターンを考えるべき投資領域ですが、株主資本に対するリターンを株主の皆さまに確約した上で成長投資をしていくという考えの下、全社のROE目標については今後3年間は引き続き13%以上として設定しました。
ネットDERについても重要指標として管理していきます。「商社として借入金を増やしてレバレッジを利かせるべき」という視点に立てば、現状の0.48倍という数字はやや低いとも考えており、0.6倍から1.0倍の間でしっかりとコントロールしていくことが重要だと考えています。現状は仮に1兆円程度の借入をして大型のM&Aをしたとしても0.8倍程度で収まる想定です。引き続き、同程度の余裕を持ちながら3年間を走りきりたいと考えています。


成長投資とROIC管理
3つのValue領域毎にROIC目標を設定。
ROICと当社独自指標TVAの融合も図り、
資本コストを意識した経営に取り組みます。
全社のROE目標を設定するだけでなく、3つのValueという投資先領域毎にROIC*1目標を設定し、各領域で実現すべきリターンを明確にしました。「Nature Value」については5%以上、「Social Value」については10%以上、「Core Value」では15%以上という数値を設定しています。「Nature Valueは儲からないからやらない」ではなく、Value毎の目標ラインを超えれば投資可能、ただし、3年後にはアップサイドシナジーを付加することでもっと高いリターンを視野に入れるべきだと考えています。現段階のROICの数値は、環境課題や社会課題の解決に向けた投資の重要性を従業員にも社外の皆さまにも理解してもらうための第一歩であると考えています。今回の中期経営計画発表後に何度か投資家の方々と対話する機会がありましたが、「なぜ低リターンの再生可能エネルギー事業をやるのですか?」という質問は随分と減り、徐々に私たちの考えをご理解いただけるようになってきていると感じています。
「Nature Value」、「Social Value」という領域で、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)の解決をすると同時にリターンも上がる。そのバランスを両立させながら、長期目線でサステナブルな事業を進め、我々のグループビジョンである“Be the Right ONE”(唯一無二、かけがえのない存在)になっていくことを目指していきます。
なお、当社ではROICに加えて社内指標としてTVAという独自の指標も使用しています。TVA*2とは、投下資本(使用資金)に求める期待収益率(使用資金コスト率)を超えた付加価値を測る指標であり、使用資金に対して期待される収益が確保されているかモニタリングを行っています。新ビジネスを創出するときの「目指す姿」は利益率で示すROICの方が優れていますが、ビジネスが「黒字化しているか」をモニタリングするには、数値で示すTVAが適していると感じています。しかし、2つの指標を併用することには、わかりづらい面もあるため、現在、これらを融合したKPIを策定するプロジェクトが進行しています。若手も多く参画しており、次の20年、30年にわたって機能するKPIを完成させたいと思っています。
- *1Return On Invested Capital の略称。投下資本利益率と訳される。債権者から調達したお金に対して、どれだけ利益を出しているかを示す
- *2Toyotsu Value Achievementの略称。「TVA=(基礎収益-利息収支)×(1-各国税率)-使用資金×国別使用資金コスト率」。基礎収益とは、営業活動以外から発生した、非経常的で臨時的、かつ多額の損益を調整した税引前当期利益であり、営業本部・事業体の「稼ぐ力」を示す。国別使用資金コスト率とは、営業活動・事業活動に要する使用資金から生じる、国別資本コストと国債利回りの加重平均によるコスト率を示す

Nature Value領域では引き続き
再生可能エネルギー事業に注力します。
「Nature Value」の領域では、再生可能エネルギー事業に引き続き注力していきます。前中期経営計画期間中からすでに重点的な投資を実施し、㈱ユーラスホールディングスの100%子会社化やテラスエナジー㈱の買収等を実現してきました。㈱ユーラスエナジーホールディングスは1980年代から再生可能エネルギー事業に取り組み、長く蓄積されてきた知見やデータは、一朝一夕にまねできるものではありません。今後も再生可能エネルギー事業に注力しながら、発電量が安定しない再生可能エネルギーのデメリットを解消できる手法として注目を集めているVPP*をはじめとして、水素の利活用等、幅広い可能性を探求し、「国内再エネNo.1」の地位を確固たるものにしていきます。
また当社は、10年前から化石燃料関連事業が、サステナブルな事業ではなくなることを見越し、当社ならではの事業ヘシフトするため、いち早く処分を進めてきました。このたび2024年度中を目途に石炭・重油発電事業から完全撤退することも決定し、これで同エネルギーを原料とした発電関連の事業への投資は終了になります。
- *VPP:Virtual Power Plantの略称。日本語で仮想発電所を意味する言葉。太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーや蓄電池、電気自動車等、私たちの身の回りに点在する小規模なエネルギーリソースを、IT技術を用いて制御し、1つの大きな発電所のように機能させる技術のことです

Social Value 領域では「地上資源」の
循環エコシステムの構築を目指します。
当社は10年以上前から地下資源の開発には投資せず、地上資源、すなわち再資源化が可能なリサイクル関連事業に注力してきました。
サーキュラーエコノミーの実現が叫ばれる中、EV用二次電池のリチウムやスクラップのアルミニウム等の金属再資源化は、そのニーズが高まり続けています。例えば欧州では、新車の製造に使用されるプラスチックの25%にリサイクル材の使用が義務付けられる規制案が発表されています。今後もこうした規制や要請をいち早く捉え、循環エコシステムの構築をリードしていきます。
株主還元の方針
前中期経営計画期間の株主還元実績を大きく超える
累計3,000億円以上の還元を予定しています。
株主還元については、中期経営計画期間での累進配当をお約束していることから2026年3月期まで考えると、16期連続の増配を達成見込みであり、株主の皆さまから一定の評価と信頼をいただいていると考えています。配当性向についても目標である「30%以上」を達成します。
新中期経営計画策定にあたり、中長期的なキャピタルアロケーション、つまり、投資戦略、3つのValue領域への投資とそのリターンとROE目標、レバレッジの推移等、これらを中長期的にしっかり数字に落とし込み、社内で深い議論をしました。そうした中で、今後3年間の株主還元目標としては還元総額「3,000億円以上」としました。2021年5月公表の中期経営計画では株主還元目標を「1,300億円以上」とし、実績としては「2,260億円」だったため、それを大きく超える還元額となります。自社株買いについては、必要に応じて実施する可能性はあるものの、基本的な方針としては配当での還元、累進配当をより重視しています。
CFOとして大切にしていること
リスクをマネジメントし
最適な事業ポートフォリオの構築を実現するためには
事業や商品への深い理解が欠かせません。
私は財務・経理畑を長く歩んできましたが、数字だけでなく、ビジネスや商品そのものをしっかりと理解することが重要だと考えています。事業の実態、展開する国・エリアの動向、商品の市況等が把握できていなければ、生きた数字とリスクを捉えることはできないからです。私自身、かなり細かい粒度で事業の現状を把握するように努めています。それぞれの事業の状況、推移を把握するというリスクの管理によって、ROICターゲットを超える経営ができると考えているためです。
例えば当社が得意とするモビリティの世界も、EVへの期待と、実際の市場には乖離があり、改めてハイブリッド自動車が見直されてきています。またアフリカの国々はどうしてもインフラが整っておらず、従来のガソリン車が必要です。マーケット毎で政策が異なるので、我々はそれを見ながら、それぞれに適した時間軸で事業を推進していく、というやり方が一番正しいのではないかと思っています。加えてここ20年ほどを振り返ると、世界情勢やビジネスの趨勢を見ながら、国・エリア毎の投資比率を見直し、アフリカへの投資を強化し、成果を上げてきました。一言でアフリカと言っても54カ国あり、言語も商習慣もリスクも異なります。54カ国毎の戦略とリスクコントロールが必要であり、実践しています。こうした国・エリア別の視点以外にも、商品別等、多数の軸でリスクを検証し、最適な事業ポートフォリオ構築に取り組んでいます。
なお、定量的な指標としては、「リスクアセット(RA)/リスクバッファー(RB)」を設定し、1.0倍未満に収めるよう管理しています。
将来予測の精度を上げるために
「歴史から学ぶ」ことを大事にしています。
もう一つ私が大切にしているのは「歴史から学ぶ」ことです。経済指標ひとつとって見ても、いつまでも上がり続けることはなく、必ず下がる時が来るものです。主要な指標については過去50年程度の状況を全て頭に入れておくようにしています。
また、商社としてグローバルな事業を展開している以上、各国のこれまでの歴史を把握しておくことも非常に重要です。歴史は必ず繰り返すものと肝に銘じ、過去を学ぶことで将来予測の精度をあげるように努めています。
新たな挑戦にぜひご期待ください。
私は先ほど、「自然と社会にお返しする」というお話をしましたが、地球に対し個々人が貢献する手段として、企業を通じた貢献もあることを提案していきたいと考えています。先がまだはっきりと見えないところに対しても投資をし、これを皆さまと共に見守り、企業として約束を守る。すなわち私たちであれば、ROE13%以上維持のお約束を守っていくことができます。株主の皆さまには、私たちのこうした挑戦を見守り、後押ししていただきますようお願い申し上げます。
