社長メッセージ
社長就任2年目
“得意科目”にめっぽう強い特徴が際立ってきた
2025年4月の社長・CEO就任から、1年半が経ちました。この間を振り返りますと、地政学リスクの急激な高まりや、より高度なAI技術の登場等により、社会の構造は劇的に変化しました。それだけに、企業にとっては脅威が増していると感じています。ところが、総合商社にとっては、現在のような変革の時代は事業を成長させる絶好の機会でもあります。つまり、脅威以上に、機会の面が大きいと捉えています。
です。戦国時代の茶人・千利休は、「人の行く 裏に道あり 花の山」という有名な言葉を遺しています。私たちも20数年前、他の総合商社が注目していなかったアフリカにいち早く経営資源を振り向け、多様なビジネスを立ち上げてきました。また、資源ビジネスに強みを持つ競合他社が多い中、当社は「地球を掘ることが全てではない」と考え、既存資源をリサイクルする事業や、グリーンインフラの構築に資するビジネスに早くから注力してきた経緯があります。まさに、他社の行かない道を歩んできたからこそ、“得意科目”にはめっぽう強いユニークな特徴が、際立ってきたと感じています。社長・CEO就任初年度は、豊田通商が歩んできた独自の強みを「異能の総合商社」という言葉で改めて定義しながら、新たな経営体制を離陸させることができたと自負しています。未来が見通しにくい激変の時代に、千利休の格言は一段と重みを増してくるはずです。
このような経営環境にあって、2026年3月期は、親会社の所有者に帰属する当期利益(以下、当期利益)が3,705億円となり、5期連続で最高益を更新しました。私たちは現在、豊田通商らしい8つの事業をグローバルで展開しています。いずれかの市場や地域で需要が停滞する局面でも、他の好調な事業で補完できる事業構造が、5期連続で最高益を更新できた背景にあります。
2027年3月期における当期利益の業績予想を4,000億円としましたが、2027年3月期第1四半期決算にて、4,300億円に上方修正しました。そして、2028年3月期までの中期経営計画「次元上昇2028」(以下、現中計)では、最終年度に達成すべき数値目標を掲げています。まず当期利益を4,500億円に伸ばし、ROEは15%以上を目指します。成長投資には3カ年累計で1兆2,000億円を振り向けます。そして総還元性向は40%以上を目標とします。計画達成に向けた戦略・施策については、おおむね順調に進んでいると認識しています。また現中計では、従来のようなローリング方式ではなく、3年間の目標を固定としました。市場との対話を重視しながら、進捗状況を丁寧に説明し、掲げた目標に対する説明責任をしっかり果たしていきます。一方で現時点の課題は、地政学リスクに起因する環境変化への対応力をさらに高めることです。具体的には、サプライチェーンの強靭化です。従来の製造・供給網が途絶する事態を想定し、代替調達先の確保や輸送ルートの複線化を、さらに急がねばなりません。また、人類の想像を超えるスピードで進化しているAIへの対応力向上も、私たちにとって重要な課題です。AIはツールではなく、パートナーと位置付けています。AIを活用しながら、各事業のオペレーションを高い生産性で実行できる体制を構築し、競争力を高めていきます。
次元上昇①――成長戦略
世界トップシェアを目指す
現中計期間の3カ年で目指しているのは、企業価値のさらなる向上です。具体的な指標として、PBRを重視しています。その実現に向け、させていきます。次元上昇とは、過去からの延長線上にあるオーガニックな成長路線を歩むのではなく、私たちの事業と経営そのものを、一段上に引き上げることを意味します。

ゴンドワナ経済圏とは
1つ目の成長戦略では、当社が展開する事業の中でも、特に際立った強みを持つ領域を「異能領域」と定義し、次元上昇を図ります。です。いずれも世界でトップシェア、少なくとも日本市場での首位獲得を目指しています。
異能領域の1つ目のアフリカ事業については、今後10年でビジネス規模を現在の約3倍に拡大します。その実現に向け、モビリティ・再エネ発電・ヘルスケアビジネスへの投資を加速しています。具体的には、2026年3月期に、新たにガーナにおいて、トヨタおよび日野の販売代理店事業を現地企業から獲得し、当社グループによる直営代理店としました。また、エジプトで、アフリカ最大となる654MWの風力発電所の商業運転を開始しています。さらに、東アフリカの大手薬局チェーンGoodlife Pharmacy社の株式を追加取得し、同社を完全子会社化しました。
当社グループは現在、アフリカ市場で培った強みをベースに、グローバルサウスでの投資を加速化しています。中でも注力しているのが、インドと南米です。市場特性がアフリカと類似しており、物流インフラや商品政策を一つの経済圏として展開できる利点があります。こうした地域群を戦略的に捉える概念を思案していた時、出張で訪れたブラジルの港で、当社の穀物がアフリカ向けにも出荷されていることを改めて確認しました。地図を眺めると、南米とアフリカの大陸の形がぴたりと重なって見えたのです。南米・アフリカ・インドは、太古の昔には巨大なゴンドワナ大陸として地続きでした。そこで、私たちが注力するアフリカ・インド・南米の市場を総称して、「ゴンドワナ経済圏」と名付けることにしました。
このゴンドワナ経済圏では、まず基盤事業でもある自動車販売・モビリティサービスの、飛躍的な成長が見込めます。実際、トヨタ自動車(株)とスズキ(株)が2030年までに、インドと南米地域での自動車生産台数を倍増させる計画を進めています。また、ゴンドワナ経済圏の潜在ニーズに着目した、当社らしい新しいビジネスの創出にも着手しました。社内ではこれらをと呼んでおり、近い将来、基盤事業の一つになれるよう育成していく考えです。その象徴が、インドでの病院運営・保険事業です。現在、運営ノウハウを蓄積しており、将来的にはアフリカへの展開ができると考えています。この経済圏では、重要鉱物資源分野にも大きな可能性があります。すでにインドでは、自動車モーター向けレアアースの精製を拡大しており、ブラジルでも大型投資を計画しています。

「地球を掘らなくてもよい」という世界観
異能領域の2つ目は、サーキュラーエコノミーです。当社は1970年代から、トヨタ自動車(株)の製造工程で発生する鉄スクラップや廃車の回収・再生事業を日本市場で開始しました。この半世紀余り、お客さまの生産拠点の拡大に合わせて、資源循環ネットワークを世界各地に広げてきました。そして2025年7月、当社は北米トップクラスのリサイクル企業Radius Recycling社(以下、Radius社)を完全子会社化しています。Radius社は、当社が以前から戦略的に注目してきた企業でもあります。
Radius社が北米に築いてきた圧倒的な回収ネットワークと、当社が蓄積してきた再資源化ノウハウが結び付くことで、強力な相乗効果が生まれています。
このシナジーを最大限に活かしながら、2035年度までにベースメタル(鉄スクラップ)のグローバルシェアを、現在の2%から5%に拡大することを目指しています。モビリティ領域のリサイクル取り扱いについても、同年度までに18%のシェア獲得を見込んでいます。今後は欧州とアジアでもモビリティ産業の「動脈」と「静脈」をつなぎ、サーキュラーエコノミーのプロバイダーとして、世界トップの地位を固めていきます。ただし、私たちは事業規模だけを追って、“世界No.1”になろうとしているわけではありません。あらゆる廃材を資源循環させる収益モデルを確立しながら、という世界観に基づく取り組みを、世界に先駆けて実装していきたいと考えています。実際、プラスチックリサイクルについても、当社の素材がトヨタ自動車(株)の「クラウン(スポーツ)」や「RAV4」に採用される等、着実に成果が出始めています。


異能領域の3つ目に掲げたネクストモビリティは、電動化と知能化の両面から、次世代モビリティへの進化を支えるビジネスです。今後、大きく拡大する電池・半導体分野で、当社らしい強みを発揮していきます。まず、電池の原料開発から、使用済み電池の再資源化に至るサプライチェーンを、韓国や豪州等のパートナーと連携して構築します。知能化では、半導体の調達力を強みに、SDV(ソフトウェア定義車両)の開発支援や、コネクテッドサービス事業の成長を加速していきます。
4つ目の再生可能エネルギー事業は、従来から手掛けてきた先進国での案件に加え、エネルギー需要が急拡大している新興国で、グリーンインフラを構築していきます。アフリカや中東・中央アジアを中心に、総発電容量を現在の5GWから、2031年3月期に10GWまで拡大させます。また、日本国内では、再エネや蓄電池を統合制御するシステム「ReEra」を活用し、再エネ普及と電力需給の最適化に資する事業を拡大しています。短期的には政策や地政学の影響による変動もありますが、脱炭素化と再エネ拡大のメガトレンドは、中長期的に変わらないと考えています。
次元上昇②――財務・資本戦略
資本コストを強く意識し、全ての事業をROICで評価
財務・資本戦略も重視しています。その上で、株主・投資家の皆さまと対話する際に、私が常に心がけていることが2点あります。一つは、ことです。手掛けるビジネスを得意分野に絞り込み、個々の事業が市場で高いシェアを占めている理由等を、解像度を上げて平易な言葉で語るよう努めています。もう一つは、ことです。株主・投資家の皆さまから特に多くいただく要望は、総還元性向の引き上げです。現中計においても累進配当を継続しており、2028年3月期には自己株式取得を含む総還元性向40%以上を目指しています。一方で、それ以上に多く寄せられるのは、「将来に向けた事業を多く展開する会社なので、今後の成長に期待したい」といった声です。アフリカ事業を例に挙げますと、過去7年間で事業規模を約3倍に拡大してきました。しかし、アフリカ市場の本格的な成長は、むしろこれからです。人口増加に伴い、自動車や医薬品、エネルギーの需要はさらに高まります。アフリカ市場は今まさに成長前夜である“ホッケースティック”が曲がり始める局面にあると見ています。これまで築いてきたネットワークや事業基盤を活かしながら、人口増加に伴う経済成長を上回るスピードで、事業を拡大していきたいと考えています。
こうした成長期待に応えていくためにも、投資規律を徹底することが重要です。私は以前から、資本コストを上回る価値創出を強く意識して経営してきました。当社では、全ての事業をROICで評価しています。その上で、資本コストに見合わない事業や、成長が停滞した事業については、迅速に見直し・撤退を判断する体制を整えています。また私たちは、ベストオーナーという考え方も重視しています。一定の収益性を確保していても、当社が保有するより、他社が持つことでさらに成長できる事業については、入れ替えを進めています。撤退・再編の判断基準を見直し、事業ポートフォリオ検討の議論頻度を高め、意思決定までの期間も短縮してきました。
なお、当社が保有してきた(株)豊田自動織機の株式は2026年3月期中に全て売却を完了し、トヨタグループ内での複雑な株式持ち合い構造が、シンプルで分かりやすいものへと変わりました。
次元上昇③――人財・組織戦略
“DNA”の覚醒と躍動する生命体組織
人財・組織は、当社を次元上昇させる4つの戦略の一つであり、非常に重要なテーマです。私は、「人間が生まれながらに持っている力には、ほとんど差がない」と考えています。しかし、年齢を重ね、ビジネスの世界に入ってからは、個々の潜在能力がどれだけ覚醒するかによって、大きな差が生まれてきます。自分の意志で考え、仕事を面白いと思いながら挑戦している人と、そうでない人とでは、発揮される力に大きな差が出てくるからです。そこで当社では、を促す仕組みを整えています。
その典型例が、入社8年以内に海外駐在する制度です。赴任先では、数十名から百名規模の業務部門を統括し、一定の権限と責任が与えられます。しかし周囲にいるのは、自分とは文化や価値観の異なる人たちばかりです。言葉の壁もあり、現地に溶け込むだけでも大きな苦労を伴います。敗北感に打ちひしがれることもあるでしょう。それでも、やがて現地の仲間と共に成果を生み出せるようになっていきます。私は、こうした「経験価値」こそが、人を大きく成長させると考えています。コンフォートゾーンを越えた環境で挑戦し、仲間と共に成果を勝ち取る経験を重ねる中で、潜在していたDNAが一気に覚醒していくのです。そして数年後、豊富な経験に裏打ちされたグローバル人財へと成長し、日本に戻ってきます。実際、海外赴任を経て「新たな視座を得た」という声は多く、自組織の成長をリードできる実力を備えた人財に育ってきています。
「生命体型サプライチェーン」を構築し、嵐に強い総合商社へ
商社のビジネスは2025年以降、米国の関税政策等によって大きな影響を受けています。この難局を通じて、私は改めて当社の強さを実感しました。それは、ともいえるケイパビリティです。グローバルなサプライチェーンが分断される局面でも、当社グループは世界各地の現場が即座に判断し、自律的に供給網を組み替えていきます。まるで生命体が自己修復するように、供給の連鎖を維持できる力があるのです。危機対応においても、全てを本社が指示して動かすわけではありません。現場が状況を見ながら自ら判断し、瞬時に動いていく。そうしたこそが、当社グループの大きな強みだと考えています。なお、各事業組織の次元上昇に不可欠なAI活用については、社内で志をもつ約150名のAIインフルエンサーが中心となり、AIドリブンな働き方の浸透を進めています。


以上のように、世界で活躍する7万人のDNA覚醒と、外部環境の変化に対して素早く行動できる「躍動する生命体」のような組織づくりを、着実に進めています。一方で、当社ではグループ共通の豊田通商DNAを定めており、その浸透に向けて、私や経営陣が世界各地の拠点を訪れ、タウンホールミーティングを実施してきました。私たちが重視しているのは、従業員とのダイレクトな対話です。社内の重要な情報は、最も大切なステークホルダーである従業員へ、できる限り最初に伝えることを常に心掛けています。また、従業員の家族を職場に招く「ようこそ豊通」というイベントも毎年開催しています。私たちは、従業員を支える家族も含めて、重要なステークホルダーだと考えているからです。私は、この笑顔あふれる「ようこそ豊通」を、会社訪問してくれた子供たちが大人になった時代も、そして、その子供たちの子供たち(=未来の子供たち)の時代も続けていきたいです。
部門横断型のビジネスを創出
さらに、「生命体組織」を進化させていくためには、組織間連携をもう一段高めていく必要があります。商社はどうしても、それぞれの営業本部や事業に強く入り込む傾向がありますが、していかなければなりません。私たちは現在、北海道・稚内市でグリーンデータセンター事業に取り組んでいます。風力発電所とデータセンターを直結し、グリーン電力のみでサーバーを稼働させる、国内初の先進的な取り組みです。この事業は、デジタルソリューション本部とグリーンインフラ本部に属するグループ会社の(株)ユーラスエナジーホールディングスが、共創で進めているプロジェクトです。このような部門横断型ビジネスを、今後さらに生み出しやすくし、新たな価値創出につなげていけるよう、当社グループ内の連携強化を進めます。
次元上昇④――サステナビリティ戦略
「異端」から「異能」へ
「4つの次元上昇」の最後に据えているサステナビリティ戦略は、1970年代から手掛けてきた、持続可能な社会の実現に資する複数の事業モデルを発展させながら、さらなる成長と競争力強化を目指すものです。半世紀余りの歴史を持つ資源循環ビジネスや、合併前の(株)トーメンが立ち上げた風力発電事業は、当時の産業界から「異端」と見られていました。しかしその後、社会課題の解決と経済価値の両立に成功できた背景には、各プロジェクトメンバーの並々ならぬ努力に加え、「天の時・地の利・人の和」という“天地人”にも恵まれたと思います。そして現在、これらのビジネスは社会の潮流とも重なり合い、しています。
今後は、成長戦略で掲げた4つの異能領域に続く新たな種として、ヘルスケアビジネスを伸ばしていく構想を描いています。人々の健康増進やQOLの向上に貢献できる事業であり、ゴンドワナ経済圏をはじめとするグローバルサウスの市場には、特に大きなポテンシャルがあると見ています。
私たちは、と捉えています。環境対応をコストではなく「ビジネスチャンス」として捉え、さらなる収益拡大につなげていく考えです。こうした取り組みは、気候変動対策をはじめとする環境経営の分野でも、社会から高く評価されています。国際的なESG評価機関であるCDPからは2年連続で最高評価を獲得している他、投資指数であるFTSEのインデックスにも継続的に選定されています。こうした評価も追い風にしながら、サステナビリティ戦略をさらに加速させていきます。
「異能」でないと生き残れない。「異能」の種をまき続ける
これからの事業のあり方を展望しますと、異能でないと生き残れないという確信を、ますます深めています。だからこそ今後も、他社が着目していない領域に異能の種をまき、次元上昇させながら、当社グループ独自の強みを磨き上げていきます。異能をさらに磨き上げていく上で、という立ち位置も私たちの大きな強みです。トヨタグループは、各社の強みを掛け合わせてシナジーを創出し、産業界で勝ち残っていこうという強い意志を持つ集団です。その中で当社は、トヨタグループ唯一の総合商社として、独自の役割を担っています。トヨタグループ内で連携しながら価値を高める「求心力」と、外の世界で新たな事業や競争力を獲得し、それをトヨタグループへ還元する「遠心力」の両方を発揮していきます。
未来の子供たちにより良い地球を届けたい
私は社長・CEOに就任して以来、当社グループをと表現してきました。なぜ私が“大旅団”と名付けたのか。私は旅が趣味であり、です。旅は、目的地にたどり着くことだけに価値があるのではなく、そこへ向かう過程そのものにも意味があると思っています。そして当社グループには、世界約130の国・地域で活躍する、およそ7万人の多様な従業員がいます。アフリカだけでも約2万人が働いており、この多様性こそが、当社の強さの源泉になっています。従業員たちは豊田通商という“船”に乗り、というMissionに向かって旅を続けています。その過程では、お客さまやパートナー事業者さまとのつながりも深まっていきます。私は、この旅に関わる全ての人が、「明るく楽しく元気よく」、笑顔あふれる状態で、この旅を共に続けていけること自体に、大きな価値があると考えています。その想いを、「大旅団」という言葉に込めました。
Missionの中で言及している「未来の子供たち」とは、22世紀の子供たちを指しています。次の新しい世紀が始まっても、地球が美しく、人々が幸せに暮らしている――。そんな未来を22世紀の子供たちへ届ける責任が、私たちにはあるのです。


