社長メッセージ
着実に未来への布石を打った
2024年3月期
2024年3月期の豊田通商グループは、親会社の所有者に帰属する当期利益(以下、当期利益)が3,314億円となり、3期連続で過去最高益を大幅に更新することができました。振り返ると、2023年3月期の当期利益2,841億円は、円安の進行と商品市況の高騰、自動車産業のサプライチェーンが回復に向かったこと等が業績にプラスの影響をもたらしたため、「追い風参考値」と申し上げました。2024年3月期は「真の実力をつくり込む年」と位置付け、自動車生産関連の取り扱い増加をはじめ、旺盛な需要に応えるための体質強化に努めてきました。
その結果として、2024年3月期の当期利益は、2022年3月期に公表した中期経営計画での当期利益1,800億円を大幅に上回る3,314億円となりました。また、当社の重点分野においては、北海道・道北地域での国内最大級の風力発電設備、および送電・蓄電事業設備の竣工、ならびに米国での車載用電池工場への追加投資等を実行し、しっかりと実力をつくり込めたと捉えています。
この20年余りを振り返りますと、2001年3月期から2024年3月期までの間に当社の時価総額は約30倍に伸長しており、同期間における日経平均株価の約3倍の伸長をはるかに凌駕していることを見ても、当社グループがいかに成長を遂げてきたかが、お分かりいただけると思います。株主の皆さまの理解を得ながら、経営資源を成長分野に振り向けてきたことが、こうした数字に表れており、私たち自身もこれまでの戦略や経営判断に対し、少しずつ自信を深めています。
2000年代までの私たちは、「追随者」という立場だったと認識しています。トヨタグループをはじめとしたお客さまやパートナーの皆さまを支える縁の下の力持ちの役割を担いながら、パートナーと共に成長させていただき、続く2010年代には、お客さまと共に考え、事業を遂行するパートナー、すなわち「伴走者」としての実績を積み上げてきました。その過程では、アフリカでのビジネスネットワークを持つフランス最大の商社であるCFAO社の子会社化や再生可能エネルギー事業をグローバルに展開する㈱ユーラスエナジーホールディングスの子会社化等、国内外でのM&Aによって段階的に業容を拡大してきました。
2000年時点の関連会社数は140社でしたが、現在では1,000社を超える規模に至っています。M&Aでは新たなビジネスの獲得はもちろんのこと、優秀な人財が当社グループに加わることによる効果が非常に大きかったと認識しており、実際に私たちにはなかった能力や発想が、その後の成長に結び付いています。
また、私たちと仕入れ先、お客さま、そしてパートナーとの信頼関係が、コロナ禍の3年間でより強固になりました。グローバルでのサプライチェーンを取り巻く環境が急変する中で、私たちは需給状況やマーケット状況に関するデータを双方で共有する等、取引の透明性を高め、事業の継続性を確保してきました。
コロナ禍で一層深まった信頼関係をベースに、当社グループが総合力を発揮し、各部門一丸となって「豊田通商ならでは」の機能を提供することで、お客さまが抱えているお困り事を解決するよう努めてきました。そのことにより、これまでお客さまと接点のなかった部門において、新たなビジネスを創出することができ、「豊田通商が世の中に提供できる商品やサービスは、自分たちが認識しているよりも、はるかに豊富にあることに気づき、その上でお客さまに徹底的に寄り添い、私たちの総力を結集することによって、もっともっとお客さまに貢献することができる。」と確信しました。
このように、現在の当社グループは、お客さまやパートナーの皆さまに支えていただき、周囲よりも少し前を見て、果敢にチャレンジする「先駆者」的な存在になりつつあります。
そして、私が思い描く近未来の当社グループの姿は「先導者」です。初心を忘れず縁の下の力持ちとしての役割を果たしながら外部環境の変化を先取りし、感謝の気持ちを持ち続け、これまで以上にお客さまやパートナーに寄り添い、新たな世界へ導いていく存在を目指していきます。

本質的な問いに立ち返り、
ミッションを再定義
2023年に策定した7つの重点分野*は、すでにお客さまに広く認知されているものもあれば、これから高い成長が期待できるビジネスも含まれています。この7つの重点分野を中心とした成長戦略を加速していくために、改めてお客さまへの提供価値を見直し、「組織は戦略に従う」という考えの下、2024年4月に営業本部体制を再編し、組織名称を変更しました。
多くの商社は各営業部門に、取扱商品を軸とした名称を付けていますが、お客さまに提供しているものの本質は、その商品やサービスを提供することによって創出される価値です。
そこで私たちは、豊田通商だからこそ提供できるお客さまへの価値やそれを通じた社会へのミッションを言語化し、各営業本部の名称としました。再定義に際して、「何のために、誰のために私たちは存在し、何をすべきなのか」「世の中の、どんな人々の笑顔と幸せのために存在しているのか」「社会のどのような困り事や課題を解決しようとしているのか」という、本質的な問いに立ち返りました。
私たちがミッションに基づいた仕事に取り組むことで、会社・本部・従業員それぞれの提供価値が同心円のように連なります。そして、自分の仕事が会社にどう貢献しているのか、会社を通じて社会にどう貢献しているのか、この道筋が一直線につながったときに、人はやりがいを感じ、最大限のパフォーマンスを発揮することができるのです。特定の商品を販売することや輸出入すること自体を仕事と捉えるのではなく、お客さまにどのような付加価値を届けていくのかという本質を捉えて日々仕事をする必要があります。
従業員一人ひとりがお客さまへの提供価値と社会へのミッションを理解し、自分の仕事に活かしていくことを期待しています。
- *7つの重点分野:ネクストモビリティ、再生可能エネルギー・エネルギーマネジメント、アフリカ、循環型静脈、バッテリー、水素・代替燃料、Economy of Life

「変化をつくり出せる人」を輩出する
現在、経営トップである私のミッションのひとつは「変化をつくり出せる人」を輩出することです。その背景には、変化を恐れて衰退していく会社をたくさん見てきた私自身の経験があります。企業存続の要諦は、やはり俊敏な変化への対応力と、新たな需要を創造し続ける力ではないでしょうか。
そして当社には、トヨタグループのカイゼン文化が、価値観・行動原則の一部として根を張っています。現状に満足せず、「もっと良いものをつくろう」「もっと高みを目指そう」というマインドが、各職場に醸成されているのです。私はカイゼンの本質を、「人が持っている無限の可能性と努力を信じること」だと思っています。
全ての仕事の入口である「安全」は、「人の命を大切にすること」だと解釈しています。私を含む当社の経営陣は「現地・現物・現実」を重視するという考えから、当社グループの工場のみならず、取引先の工場への安全立ち合いにも参加し、現場の方々が安全に作業されている姿を実際に視察しつつ、その方々に「お困り事はないですか」と、じかに声を掛けています。今後も安全管理は「人づくり」であるとの考えに基づき、信用と信頼を獲得するためのさまざまな活動に取り組んでいきます。

「戦略を実行する年」
と位置付けた2025年3月期
前述のように2024年4月に営業本部体制を再編し、私たちが「次の新しいステージ」で戦う準備は整いました。2025年3月期は「戦略を実行する年」です。当期利益の目標は、2024年3月期実績である3,314億円から約200億円増益の3,500億円に設定。ROEについては13%以上を維持することを目標とし、資本効率を強く意識した経営を行っていきます。
そして、7つの重点分野の成長戦略をより一層加速させ、社会やお客さまにとって“Be the Right ONE”(唯一無二、かけがえのない存在)になることを追求します。その姿とは、他社には代替が不可能で、「豊田通商だからこそ実現できる・課題を解決できる」と評価されるような存在です。例えば、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーあるいはアフリカ等に関することなら、「まずは豊田通商に相談してみよう」と真っ先に名前が挙がる存在を目指します。視点を変えて言いますと、「他社が手掛けた方がもっと付加価値が出せる事業なら、他社に任せればよい」とも考えています。
今後も私たちの強みを発揮できる事業を見極めながら、社会課題の解決のみならず、サステナブルな成長を実現し、ステークホルダーから信頼され続ける企業、選ばれ続ける企業としての歩みを進めます。現在、当社を含む多くの企業が、「社会課題の解決に貢献すること」を標榜しています。しかし私は、社会課題解決というレベルにとどまってはいけないという考えを持っています。今や企業には、「解決+α」の要素として、世の中に「笑顔と幸せ」を増やしていくような事業展開が求められているのではないでしょうか。
今、私たちに求められるのは「個の力」
こうした方向に舵を切っていくためにも、部門の垣根を越えての活発な対話(ダイアログ)が縦横無尽に発生する文化の醸成が重要であり、縦横に加えた「斜め」のつながりの強い組織づくりを進展させていきたいと思っています。当社は部門間の垣根が低く、複数部門が協力し合うスキームを組みやすい土壌があり、当社グループの総合力を発揮し、お客さまに寄り添ってお困り事を解決することをこれからも続けていきます。一方、中長期の時間軸で私が当社の課題だと感じているのは、チームワークが良好な反面、「個人の強さ」がまだまだ不足しているということです。
もし、当社がすでに優位性を確立している分野だけで勝負するのであれば、現状の実力さえ維持すれば生き残れるかもしれません。しかし私たちは、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーをはじめとした領域で、すでに新たな挑戦を始めており、国内外のハイレベルな人財と協業するケースも増加しています。だからこそ、従業員一人ひとりの実力を高めなければなりません。お客さまの期待にとことん応え、最後までやり遂げる「個の力」が、今の私たちに求められているのです。
あらゆるステークホルダーとの
対話を経営に活かす
投資家との対話を強化するために、コロナ禍で休止していた海外IRロードショーを、2023年から再開しました。最近では機関投資家の皆さまから、「One of 商社ではなく、特徴のある存在になってきましたね」と言われるケースが増えてきました。自動車分野のサプライチェーンに深く関与しているだけではなく、再生可能エネルギーやアフリカ等、競争優位性のある分野が明確になってきたと資本市場からも評価をいただいており、大変うれしく思っています。投資家との透明性を持った対話(ダイアログ)を通じて得た示唆を経営に反映させることで、資本市場に対しても責任を果たしていきます。
2024年4月に公表した中期経営計画では、2025年3月期から3年間で1.3兆円以上の営業キャッシュ・フローを創出すると宣言しました。このうち1兆円を成長投資に充て、過去3年間の配当総額2,260億円を大きく上回る3,000億円以上を、株主の皆さまへの還元に充てていく計画としています。また、創出したキャッシュを将来に向けて再投資し、どのようにリターンにつなげていくのかという道筋を、しっかりと数字でも示していく必要があると考えています。
中期経営計画の実行と、その先にあるビジョン・企業理念を実現する上で、カギを握るのは人財です。私は、企業が果たすべき使命とは、社会にとって有為な人財を輩出し、その人財が個々の能力を存分に発揮できる場を提供することだと考えています。当社においては人的資本経営を、「事業戦略に必要な人財の育成を通じた、質と量の確保」「個々の力を最大限に引き出す環境づくり」という2つの柱で定義しています。この定義に基づいたさまざまな人事施策を実施し、「個の力」のレベルアップを促しているところです。人が成長し、実力を身に付けていくには、やはり知識と経験の両方が必要です。特に、従業員の自信となり血肉となるのは経験であり、その場を提供することが会社の役割だと考えています。
一人ひとりの従業員と直接対話(ダイアログ)し個性と向き合おう、という想いで始めた若手社員とのリバースメンタリングでは、「一生懸命やりきったら、無駄になることは一つもない。どんな仕事であっても、与えられたその場所でかけがえのない存在になれば、必ず次の新しいステージに進めるから」とアドバイスしています。また、私には「従業員がどれだけ自分の会社を愛し、自分の仕事に情熱と誇りを持ち、持てる力を最大限発揮し、どれくらい社会に貢献できているか」この総和が企業価値であるという持論があります。その意味でも、従業員のエンゲージメントをより高めていくことが重要テーマであると考えています。
人財の育成・輩出と同様に、私たちが力を入れているのがサステナビリティ経営です。企業活動を行う上で、今や環境や社会は「配慮」するだけではなく、ビジネスを進めるにあたっての「前提条件」、ビジネスの対象そのものとなっています。「その事業は自然環境への配慮がなされているか」「地域社会への貢献につながるものなのか」を、ステークホルダーとの対話(ダイアログ)を踏まえて、経営判断の基準に据えています。2022年に当社グループの環境方針を策定した時には、「未来の子供たちへより良い地球環境を届ける」というスローガンをつくりました。このスローガンには、今の社会に良いことだけでなく、未来にとっても良いことを届ける、という想いを込めています。未来の人々の笑顔と幸せにつながり、そして「ありがとう」と言われるような事業をすべきであり、経営判断の際には未来への時間軸も考慮することを、常に意識しています。

信頼され続ける企業としての
正道を歩んでいく
冒頭でお話しした、お客さまやパートナーを新たな世界へ導いていく「先導者」になるためには、3つの課題があります。
1点目は「パートナー戦略」です。商社のビジネスは、自社だけで事業が完結することはほとんどなく、モノづくりを担っていただけるメーカーをはじめ、パートナー企業の存在が不可欠です。既存のパートナーに加えて、未来のパートナー候補とも協業して新たな事業を創造し、スケールアップを図ることが課題です。また、パートナーから常に選ばれ続ける存在になるにはどうしたらよいかを考え、相手の立場に立って、Win-Winの関係性を深掘りしていく必要もあります。
2点目は「グローバルリーダーの育成・配置」です。世界各国・地域で多様な事業を展開する当社グループの連結経営強化とダイバーシティの推進に際して、まず海外現地法人や海外事業体の重要なポストを明確化する必要があります。次に、各々のポストの期待役割や必要なスキル等を定義した上で後継者候補を選定し、育成から配置までの連動を強化していきます。各国・地域からも信頼され続ける企業であるために、海外現地法人や海外事業体の主要ポストは今後、その地域の特性や文化、商慣習等を熟知している人財を適所適材で登用し、グローバルに事業を推進していく必要があります。
そして3点目は「ガバナンス」です。1,000社を超えるグループガバナンスを強化していくことはもちろん、私たちがSQDCと呼ぶ「セーフティ(安全)」「クオリティ(品質)」「デリバリー(納期)」「コスト」の優先順位を間違えないことを改めて徹底していきます。実はコロナ禍で、サプライチェーンを守り抜くことを重視するあまり、従業員としても組織としても張り詰めた緊張感が続いてしまった、という反省があります。当時、当社原因による商品供給の停滞はほぼ防げたものの、SQDCの優先順位が揺らぎかねない局面に、何度か陥っていたのです。当時の反省を踏まえて、SQDCの順番を絶対に間違えないよう、改めて従業員への浸透に努めています。判断に迷うような状況になれば、仲間や上長にいつでも相談できる関係、そして“アンドン*”の紐を引きやすい心理的安全性が確保されている組織・風土づくりが重要になります。お客さまと従業員の安全、およびコンプライアンスの遵守が、全ての仕事の入り口であることを社内へ継続的に発信しながら、統制の取れた健全な組織運営を維持し、信頼され続ける企業としての正道を歩んでいきます。
- *アンドン:製造業の工場に設置し、異常等が発生した時にランプを点灯させ関係者に知らせる電光掲示板(アンドンの紐を引くと、生産ラインの異常を通知し、生産ラインが停止する)

過去・現在・未来へと大切な心と
行動を紡いでいく
改めて原点に立ち返り、社内で共有すべき価値観や行動原則を分かりやすく、次世代・グローバルに伝えるために、私たちは2023年9月に「豊田通商DNA継承・進化プロジェクト」を立ち上げました。
そもそものきっかけは、リバースメンタリングでした。豊田通商グループウェイに掲げていた当社の「チームパワー」「現地・現物・現実」までは理解されているのですが、「商魂」が分からないという従業員が多かったのです。彼ら彼女らと話していた私は、社内で共有してきた「グループウェイ」や「豊田通商らしさ」も、時代に合わせてアップデートする必要があると考えました。先人から後世へ引き継ぐべき精神・行動原則とは何なのか、未来に向けて進化すべき価値観は何か、グループ各社で活躍する多様な人種・国籍・世代の従業員へ、どのような言葉で伝えていくべきか ––– このような思いから、この取り組みを始めました。
プロジェクトのメンバーには、8名の外国人、7名の女性を含むダイバーシティに富んだ中堅メンバー22名を選定し、創業からの歴史を振り返り、「私たちの基盤となる大切なこころ」「歴史のなかで培い変わらず大切にする行動」、そして「これからの私たちが育んでいきたい志」という3つの観点で、約1年にわたって議論を続けてきました。プロジェクトには経営陣も加わり、2024年1月に発表されたトヨタグループが進むべき方向を示したビジョン「次の道を発明しよう」を真摯に受け止め、トヨタグループビジョンの価値観と豊田通商DNAのつながりを改めて見つめ直し、過去・現在・未来へと大切な心と行動を継承・進化させていくコンセプトに仕上がりました。
現在の当社グループには、さまざまな経歴、多様な価値観を持つ人財が活躍していますが、中には豊田通商のDNAの必要性をよく理解していない人もいるはずです。そのような人たちをいかにして巻き込み、自分事として日々の行動に活かしてもらうかが重要だと認識しています。今後も工夫を重ねながら、世界各地の従業員へ、「豊田通商DNA」の浸透活動を進めていきます。
冒頭に述べたように、私たちはお客さまやパートナーの皆さまと共に成長させていただいた、という感謝の気持ちを常に持ち続けています。今後は、従業員一人ひとりの「個の力」を高め、当社グループの総合力を発揮し、これまで以上にお客さまやパートナーからの期待に応え、「ありがとう」と言っていただける事業を推進していきます。引き続き「豊田通商ならでは」の強みと機能をさらに磨き上げるとともに、世界中のお客さま・パートナー・投資家・地域社会・従業員、全てのステークホルダーから信頼され続ける、選ばれ続ける、“Be the Right ONE”(唯一無二、かけがえのない存在)となることを追求していきます。そして、私たちは社会課題の解決にとどまることなく、サステナブルな成長を続けることによって、未来の人々に「笑顔と幸せ」を届けていくことを約束します。

